少年時代

名画座・平成

名画座・平成、今日の映画は1990年の「少年時代」です。

原作小説が柏原兵三「長い道」、原作漫画が藤子不二雄(A)「少年時代」。少年マガジンに連載され、連載が終わってから人気になったという不思議な漫画です。これに山田太一のしっかりとした脚本と篠田正浩監督の丁寧な演出で作られた、少年の心情、友情を描いた傑作です。

太平洋戦争末期、東京から富山の叔父さんの家に疎開してきた小学生(国民学校)の進二。
「田舎の人はみんないい人。田舎はのんびり出来る」という母親の言葉とは裏腹に、田舎の学校で待っていたのは、子どもには子どもなりの過酷な人間関係--異質な者に対するいじめや覇権争い、政治的駆け引き・・など。いつの時代にも親の知らない(知ろうとしない)子どもの世界があるんですね。

クラスを支配するボスは、家は貧乏だけれど成績も良く級長をやっている腕力の強い、大原武(たけし)。そしてそれに付き従う子分たち。
進二はたくさん本(お話)を読んでいて、おまけに話し上手。
お話に飢えていた武や子分たちに聞かせることで、居場所を確保します。
お話は、少年探偵団、巌窟王、怪傑黒頭巾、ジャガーの眼・・など。

進二と武の間には奇妙な友情が生まれます。
それは・・
進二「二人の時はこんなに優しいのに、
どうしてみんなといるといじめるの?」
武「わからんのお」「わからんのお」(と進二をねじ伏せる。)
・・という具合。

大阪から疎開してきた美那子からは、
「進二さん、アレでやっていけるんかいな思とったけど、ボスに取り入って結構うまあやっとるさかい安心したわ」
・・などと言われてムッとしたりします。

ある日クーデターが起こります。
病欠していた副級長で金持ちの家の須藤がひそかに派閥を拡大して、武をやっつけてボスに・・
逆転してクラスのいじめられっ子になった武。
進二が慰めようとしても・・
「何も言うな。俺は可哀想なんかじゃない」
・・と言う「男っぷり」。

こんなお話が、リアルに再現された時代背景の中で語られます。
日独伊三国同盟中のため、生徒全員でナチス賞賛の映画を観て「ハイルヒットラー」をやったり・・

やがて1年がたち夏が来て終戦。
進二は母親に連れられて東京へ帰ります。
見送る生徒たちは叔父さんにうながされ軍歌を歌います。
軍歌しか知らないから・・
「あたなはこんなのどかなところでいい人たちに囲まれて幸せだった」と母親は言うけれど・・

発車する列車。武は現れません。
母親が止めるのもきかずに、窓を開け武を探す進二。
アッ武が・・。最後に一目会おうと全力疾走する武。
懸命に帽子を振る進二。
絶妙のタイミングで流れる井上陽水の主題歌・・

過ぎ去る列車に向かって「ハイルヒットラー」をする武。
精一杯の思いを込めて。ほかのやり方を知らないから・・
切なくて胸に迫ります。

列車はカーブのあるトンネルに入り、
トンネルの入り口がだんだんと狭くなり、小さくなって、やがて闇に溶けていきます。「別れ」「人生の区切り」の名シーンです。

イヤア、映画ってほんとーにいいもんですね。
それでは皆様、またお会いしましょう。

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「少年時代」作詞作曲歌:井上陽水


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