カレーにソース

俺は昭和成(しょうかずなり)、ひとには「腹ペコ青年」と呼ばれている。いつも「腹減った、腹減った」と言っているらしい。自分ではそんなつもりはないんだけれど・・。

俺はこれでも一応学生なんだ。
都のセーホクの・・ワセダ大学の・・二部、つまり夜間大学。
仕送りっていうのがないから、学費も生活費も自分で稼がなくてはならないんだ。クラスには自衛官やりながら通っている奴もいる。偉いもんだ。
それとな、驚くなよ。
あの、吉永小百合もいるんだぜ。「キューポラのある街」「いつでも夢を」「寒い朝」・・そのままなんだよ。たまに英語の授業で一緒になるけど、頭もいいんだ。すごいよね。

住まいは、線路際のアパートの一室、窓の下には神田川 ではなく、名も知れないドブ川が流れている。 いわゆるひとつのカンカンアパートってやつよ、文句ある? 燦燦と西日のあたる4畳半。もちろん風呂なし、廊下の突き当りに共同トイレ。 水道と小さな流しはついているけど、せいぜいチキンラーメンを作れるくらいだな。 だからどうしても外食に頼ってしまう。

それにしても腹減ったな、さて何食おうか? とりあえずいつもの早稲田食堂に行くか。 あそこのおばちゃんカレー がいいんだな。
デコラのテーブル、ガタガタのパイプ椅子に座って、 あのメリケン粉たっぷりのボッテリとした黄色~いカレーに、 黒~いソースをたらして、 薄っぺら~いスプーンでぐちゃぐちゃにかきまぜて・・と ひと口ほおばると、これがうまいんだ! えも言われぬあの味わい、も~たまんね~ぜ これに固めの福神漬けなんかついてた日にゃ~、 あ~極楽ごくらくってもんだぜ!
待てよ、定食もいいな。 どんぶり飯にいつものジャガイモとキャベツの味噌汁。 でっかいお玉でひとすくい、サッとよそってサッと出す。あの手際の良さがいいんだね。 おかずは・・と、まずニシンの煮つけ。濃いしょうゆでグツグツ煮込んだ真っ黒なやつ。御飯が進むんだ。 レバニラ炒めもいいし、ハムカツもいいけどね。 小皿でキンピラとポテトサラダとじゃこおろしを付けて、・・なんて言ってたら、予算オーバーになっちまうよ。五百円札いち枚で押さえないとまたバイトしなくちゃいけなくなっちまう。

しかしなんだね、大家のおばあちゃんはいい人だけど、時々くさやを焼くのには閉口するね。

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