昭和小五郎 その弐

街,建物,店など

私は私立探偵、昭和小五郎である。

晴海通りで都電を降りてすぐの日比谷、三信ビルディングに事務所を構えている。
隣りは「横田貿易商会」。社長の横田氏とは懇意にさせてもらっている。秘書嬢もティッピ・ヘドレンに似た、なかなかの別嬪である。時々、銀ブラにも付き合ってくれる。
横田氏は以前大陸で、大連を拠点にかなり派手に活躍したらしい。
今は南洋航路経由で、パインアップルの輸入をしたり、ティントイの輸出など営んでいる。
エンパイアステートビル今日は横田氏に付き合って、横浜の大桟橋まで来ている。
この大桟橋、探偵研修で行った米国紐育の波止場を思い出す。キングコングが登ったエンパイアステートビルディングのある、あの紐育である。
この波止場にもあの米国の香りが漂って・・、メリケン波止場とはよく言ったものである。

遅くなった時の宿はいつもホテルニューグランド
マッカーサー元帥が執務室として使ったスイートルームという訳にはいかないが、部屋の窓から氷川丸越しに見える海の眺めが実に良い。
朝は雰囲気の良い中庭でアメリカンブレックファーストと洒落込んでいる。
カリカリに焼いたベエコンに卵はサニイサイドアップ、たまにはベイクトエッグも悪くない。
これに搾りたてのグレエプフルーツジュースがないと目が覚めない。
・・などと言っている場合ではない。

警視庁の朝比奈君に連絡しなくてはならぬ。
朝比奈君とは昵懇の間柄で、例の日暮坂洋館変死事件で共に捜査をやった仲である。また難事件が起きて私の手を借りたいらしい。電話室に寄らなくては。・・

そうそう、帰京の前に明治屋に寄るのも忘れてはいけない。
ウェルチ社のグレエプフルーツジュースやノザキのコーンドビーフなど、事務所のストックが少なくなっているので・・。隣の秘書嬢のご機嫌伺いにハーシーのチョコレエトも忘れてならぬ。
ところで、横田貿易商会では近ごろ英国製石油ストオブの輸入代理業を目論んでいるらしい。
アラディン社のブルーフレームと言うそうだ。魔法のランプのアラディンから来ているのか?・・
氏が商品見本の一台を気前良く私に贈呈してくれた。日頃から貸しは作っておくものである。
使ってみるとこれがなかなか良いものである。
探偵稼業に疲れたときなど、この青く澄んだ炎を眺めていると実にくつろげる。

明日はトヨペットクラウンのパトカーで、朝比奈君と共に難事件に取り組まなければならない。また忙しくなりそうだ。

諸君、それでは失敬する。



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