ローズ・イン・タイドランド

名画座・平成

名画座・平成のあるじ、平成平(たいらなりひら)でございます。
今日の映画は2005年、テリー・ギリアム監督の「ローズ・イン・タイドランド」です。

子どもの心がよくわかり、芸術家でかつストーリーテラーでもあるギリアム監督の魅力が凝縮された作品です。

原作がミッチ・カリンの「タイドランド」
「タイドランド」は「干潟」=海と陸の境界、狭間。
夢と現実、というより、正気と狂気の境界、狭間かも知れません。

『ウサギの穴は しばらくまっすぐ続き 急に下り坂になった
あまりに急なので 止まろうと思う間もなく
アリスは深い井戸のような所へ 落ちていった
井戸が深いのか 落ちるのがゆっくりなのか
下へ落ちながら あたりを見て 次はどうなるのか
想像する時間がたっぷりあった』

アリスは「Wonderland」で遊ぶけれど、その後は恵まれた現実に戻ります。
ローズが遊ぶのは「Tideland」。
アリスが「空想」なら、ローズは「妄想」?
ローズは過酷な現実にたくましい想像力で立ち向かいます。
これがローズの生きていく知恵、力なのです。

ローズは今日もせっせと親の世話。
ローズのパパはクレージーな中年ロッカー。
「短い休暇(薬物でトリップ)」のお手伝いをさせます。
わがままなジャンキー・ママもローズにマッサージを命じます。
親が子どもをやると、
子どもが親や大人をやらなければならなくなります。
これは「虐待」ですね。
ひとは子どもの時に、子どもらしく好奇心や想像力を発揮して、
充分に遊ばないと大人になれないものなんですね。

バービー人形の4人の頭・・
ミスティーク、サテン・リップス、ベイビー・ブロンド、グリッター・ガール。
これを指に差して、ローズはひとり遊び・・

♪しなれば 折れない ゆずるばかりじゃ 勝てない
お前の賢い瞳 お前の大きな空
俺のかわいいローズ
不思議な秘密のバラ ジェライザ=ローズ♪

薬物の過剰摂取でショック死したママを残して、
パパと一緒にたどり着いたのは、パパが育った草原の中の一軒家。
でも今度はパパが薬物でショック死。

このあたりからバービー人形の4人の頭は人格を持ってしゃべり始めます。
イマジナリーフレンド、人格の分裂、多重人格を思わせます。

ミスティークにせがまれて入れたウサギ穴に、ローズも落ちていきます。

『私はゆっくりと落ちていく
穴の内側には 戸棚や本棚がぎっしりあるわ
「聞こえる?」 ダメよ 耳を貸さないで・・』

そして出会ったのが隣の家に住む、変な姉弟。

姉のデルは魔女のような黒ずくめ。
母親の死を受け入れられず、剥製にしてベッドに寝かせています。
ローズのパパも、デルによって剥製に・・。
実はパパとデルはかつての恋人であったとか。
食料配達人とのSEXで、デルの性欲も垣間見せます。

弟のディキンズは脳障害のため脳手術を受けています。
ローズとふたりでお化粧ごっこをしたり、キスして恋愛ごっこも。
またお気に入りの遊びは、散弾を載せたりする危ない線路遊び。
ローズが頼んで見せてもらったディキンズの「秘密」は、
ローズの思惑からはずれて、工事現場から盗んだダイナマイト。

最後に家の近くで列車脱線事故が起きます。(ディキンズのダイナマイトのせい?)
救出作業が進む事故現場で、女の人から声をかけられたローズ。
これが、
親をやってくれそうな人とのめぐり逢い、であればいいのですが。・・

さて、
ローズ役のジョデル・フェルランドが素晴らしい!
この人なくしてこの映画は出来ませんね。
ローズの心が自分のことのようにわかるのでしょう。

男は、男の子に生まれて、(やがて)男になる
女は、(最初から)女に生まれる・・以上!などと言いますが、
このあたりのところも上手いですね。

美術がまたいいですね。
ディキンズの「潜水艦」に触発されて、ローズが遊ぶ海の中。
パパのお腹に投げ込まれた人形たち・・
感情表現に豊んだカメラワーク(ニコラ・ペコリーニ)と相まって、
独特の世界を見せてくれます。

話はかわりますが、
「となりのトトロ」のさつきとメイの姉妹。
これは、さつきもメイも5月のことなので、ふたりの人物ではなくて、ひとりの人物のふたつの面を描いている・・とも言われます。
・・しっかり者のいいコの面と、好奇心の赴くまま行動し、思い切り笑って、思い切り泣く、天真爛漫な面と。・・
この作品は、子どもの心をよく描いているところが、長く愛される秘密なのかもわかりませんね。

イヤア、映画ってほんとーにいいもんですね。
それでは皆様、またお会いしましょう。


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