パーフェクト・ワールド

名画座・平成

名画座・平成、今日の映画は1993年の「パーフェクト・ワールド」、クリント・イーストウッド監督の作品です。

おばけのキャスパーになって「お菓子ちょーだい!」なんて・・
学校の友達みんなが楽しんでいるハローウィンを自分だけ楽しめない、なんてつらいですよね。
綿菓子やローラーコースターを経験したことがないって!・・
子どもなのに子どもらしいことが出来ない、というのはつらいものです。

さて映画は、63年のテキサスが舞台、アメリカがアメリカらしかった頃・・

脱獄囚ブッチ(ケヴィン・コスナー)と人質にされた少年フィリップ(T・J・ローサー)の奇妙なロードムービーです。
ここに、保安官レッド(クリント・イーストウッド)や
ちょっと頭でっかちな犯罪心理学者サリー(ローラ・ダーン)、射撃の腕は確かだけれど仕事の出来ない(見ればわかります)FBI捜査官などがからみます。

かつて少年だったブッチを、暴力的な父親から引き離すためにあえて少年院に送ったことのある保安官レッド。
しかし更生施設であるはずの少年院の現実は、犯罪者養成施設。ブッチも犯罪者になっています。

父親の愛への飢えを引きずっているブッチ。母親は通称「ダンスホール」の売春婦。
宗教に熱心で厳格な母子家庭に育ったフィリップは、心の底で父親(の愛)を求めています。

便宜上一緒に脱獄した相棒は、どうしようもないクズ男。・・
フィリップをレイプしようとして、ついにブッチに撃ち殺されます。

ブッチがフィリップに言います。
「おれは今まで二人しか殺しちゃいない。おふくろを殴ったやつとお前に手を出したやつ」
「オレは良い人じゃないさ。でも悪人でもない。他の奴と違うだけだ」

理不尽で不条理なこの世界。理想の、完全な世界はどこにあるのでしょう?それは・・
ブッチにとって、そしてフィリップにとっても、父と子の理想的な関係なのかも知れません。

そして父性(父性愛)とは・・
人生を教える存在、生きるエネルギーを与える存在、ものごとの本質を教える存在、知識ではなく「知恵」の大切さを教える存在
・・なのですね。

この映画はセリフががよく出来ています。

*「アメリカ人なら誰でも綿菓子を食べていいし、ローラーコースターに乗ってもいいんだぜ」

*「坊主、タイムマシーンに乗ったことがあるか?
これがそうだ、後ろが過去で、前が未来」(乗っているクルマのこと)

*『僕のオチンチン、貧弱なの』
「どれ見せて見ろ。イヤア立派なもんだ、お前の年にしちゃあ」
(・・フィリップの嬉しそうな顔!)

*(おばけのキャスパーのお面と衣装を万引きしたフィリップに)
「盗みは悪いことだ。だが、何かが必要で金のないときは“借りる”ってことにする。変則ルールってやつだ。」

*「これが脅し(threat)、そしてこれが事実(fact)」

*(思わずブッチを撃ってしまったフィリップに)
「知らない奴に撃たれるよりましだ」

*(包囲陣に向かって)「・・さもないと、ガキは撃ち殺す!」
(フィリップに向かって)「なに本気にしてんだ。銃もないんだぞ」

ところで・・
ある授賞式の会場で、イーストウッドが黒澤明監督に近付きハグして、言ったそうです(黒澤監督は面食らったようですが)。
「あなたがいなければ今の私はなかった」・・と。
これは、
黒澤監督が三船敏郎という稀代の名優と共に作り上げた人物像(キャラクター)--「用心棒」の桑畑三十郎や「椿三十郎」が、
イーストウッドの出世作となった「荒野の用心棒」や「ダーティ・ハリー」のキャラクター作りに影響を与えた、という以上に・・
黒澤監督の人間観、映画の作り方に学んだということなのでしょう。
イーストウッドも素晴らしい映画人ですが、今さらながら、黒澤明という人は偉大ですね。

「パーフェクト・ワールド」は、温かく、そして切ない・・
噛めば噛むほど味のある映画です。

イヤア、映画ってほんとーにいいもんですね。
それでは皆様、またお会いしましょう。


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